大腸憩室炎の原因・症状とCT診断の重要性|憩室症との違いも解説
健診で「大腸に憩室があります」と言われたものの、特に症状がなく放置していたら、ある日突然お腹が激しく痛くなった――。当院にも、こうした経緯で来院される方が少なくありません。
大腸憩室は中高年の方に多く見られますが、炎症を起こす「憩室炎」になると話は別です。この記事では、大腸憩室炎の原因や症状、なぜ診断にCT検査が欠かせないのか、そして憩室症との違いについて解説します。
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この記事のポイント
- 大腸憩室症(慢性・無症状)と大腸憩室炎(急性・腹痛や発熱を伴う)は異なる状態です
- 憩室炎の診断にCT検査が必要な理由は、炎症の範囲や合併症を正確に評価できるからです
- 原因には食物繊維不足や加齢による腸壁の変化、便秘による腸内圧の上昇が関わります
- 軽症であれば抗菌薬と食事制限で改善が見込めますが、重症例では入院治療が必要になる場合があります
大腸憩室炎とは? ―憩室症との根本的な違い
憩室症は「状態」、憩室炎は「病気」
大腸憩室とは、大腸の壁の一部が外側に袋状に飛び出したくぼみのことです。年齢を重ねるにつれて腸壁の弾力が落ち、腸内の圧力がかかりやすい部分にできます。この憩室がある状態を「大腸憩室症」と呼びます。憩室症は多くの場合、無症状のまま経過し、大腸カメラ検査や腹部CT検査でたまたま見つかるケースがほとんどです。
一方、憩室の中に便がたまって細菌が繁殖し、炎症を起こした状態が「大腸憩室炎」です。こちらは急性の病気で、腹痛、発熱、下痢や便秘などの症状が現れます。憩室症と憩室炎は名前こそ似ていますが、治療の緊急度がまったく異なります。
日本人に増えている背景
かつて大腸憩室は欧米人に多い病態でしたが、食生活の欧米化に伴い、日本でも増加傾向にあります。特に食物繊維の摂取量が減ると便が硬くなり、排便時にいきむ力が腸壁にかかりやすくなります。40歳を超えると憩室の保有率は上昇し、60歳以上では25〜55%と報告されています(検査方法や対象集団によって差があります)。
大腸憩室炎の原因と発症リスク
腸内圧の上昇と腸壁の脆弱化
大腸の壁は内側から粘膜層・筋層・漿膜層という構造になっています。血管が筋層を貫く部分は構造的に薄く、腸の内圧が高まるとその部分が外側へ押し出されて憩室ができます。便秘が慢性化し、排便時に強くいきむ習慣がある方は、腸内圧が繰り返し高まるため、憩室が形成されやすくなります。
できた憩室の袋に便の破片がたまると、細菌の増殖と局所的な血流障害が起こり、炎症が始まります。これが憩室炎の発症メカニズムです。
リスクを高める要因
大腸憩室炎の発症リスクを高める要因として、食物繊維不足、肥満(特に内臓脂肪型)、運動不足、喫煙が挙げられます。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やステロイドの常用も憩室炎のリスクを上げる可能性があり、前向き研究やメタ解析で支持されています(Strate LL, et al. Gastroenterology 2011)。ご家族に憩室炎の経験者がいる場合も、ややリスクが高い傾向があります。
憩室炎の症状と「すぐ受診すべき」サイン
典型的な症状のパターン
大腸憩室炎の代表的な症状は、腹痛、発熱、食欲低下の3つです。欧米ではS状結腸(左下腹部)に憩室が多いため左下腹部痛が典型的ですが、日本やアジアでは右側の結腸にも憩室ができやすく、右下腹部痛で発症する場合もあります。右下腹部が痛む場合、虫垂炎(いわゆる盲腸)との区別が臨床上の課題になります。
痛みの程度は軽い鈍痛から動けないほどの激痛まで幅があります。37〜38℃台の発熱を伴うことが多く、血液検査では白血球やCRP(炎症反応)が上昇します。
この症状があればすぐに受診してください
お腹全体に広がる激しい痛み、39℃以上の高熱、冷や汗が出て顔色が悪い、大量の血便が出た――こうした症状がある場合は、憩室が破れて腹膜炎を起こしている可能性があります。命に関わる状態のため、迷わず救急医療機関を受診してください。
なぜCT検査が必要なのか ―診断精度と治療方針の決定
CT検査で「何がわかるのか」
大腸憩室炎の診断には腹部CT検査が広く用いられています。CT検査では、腸壁の肥厚(厚くなっている部分)、憩室周囲の脂肪織の混濁(炎症が周囲に及んでいるサイン)、膿瘍(膿のたまり)の有無、そして腸管の穿孔(穴が開いていないか)を一度に評価できます。
ACR(米国放射線学会)のAppropriateness Criteriaでは、左下腹部痛の精査においてCTが「Usually Appropriate」(通常適切)と評価されています(Weinstein S, et al. J Am Coll Radiol 2023)。
内視鏡では代用できない理由
「大腸カメラで見ればいいのでは?」と思われるかもしれません。大腸内視鏡検査は消化管の内側(粘膜面)を観察する検査です。憩室炎の炎症は腸壁の外側や周囲の脂肪組織にまで及ぶため、内視鏡だけでは炎症の広がりや膿瘍を評価できません。
さらに、急性期の憩室炎に対して大腸カメラを行うと、炎症部位を刺激して穿孔のリスクを高める可能性があります。そのため、急性期にはまずCT検査で全体像を把握し、炎症が落ち着いた後に大腸カメラで憩室の状態やほかの病変の有無を確認するのが一般的な流れです。
CTの結果で治療方針が変わる
CT検査の所見は、そのまま治療方針の選択に直結します。炎症が憩室周囲の脂肪織にとどまっている「単純性憩室炎」であれば、抗菌薬の内服と食事制限による外来治療が選択肢になります。一方、膿瘍が形成されている場合にはCTガイド下のドレナージ(膿を排出する処置)や入院管理が必要になり、穿孔して腹膜炎を起こしている場合は緊急手術の適応になることもあります。WSES(世界救急外科学会)の2020年ガイドラインでは、膿瘍の大きさ(おおむね4〜5cmが分岐点)に基づいて抗菌薬単独かドレナージ併用かを判断する目安が示されています。
つまりCT検査は、「憩室炎かどうか」だけでなく「どの程度重症か」「今すぐ手術が必要か」を判断する指標にもなっています。
大腸憩室炎の治療と再発予防
急性期の治療:軽症と重症で異なる
軽症の大腸憩室炎(微熱程度で、膿瘍や穿孔がない状態)では、抗菌薬の内服と消化のよい食事(低残渣食)による安静が基本です。発熱や腹痛は数日〜1週間ほどで改善することが多く、経過が順調であれば外来通院での治療が可能です。
なお、AGAの2021年Clinical Practice Updateでは、合併症のない軽症憩室炎に対して抗菌薬を「選択的に」使用する方針が提示されています(Peery AF, et al. Gastroenterology 2021)。国内では症状やCT所見を踏まえて抗菌薬を使用するのが現時点では一般的です。
中等症〜重症(膿瘍を伴う、穿孔がある)の場合は入院が必要です。絶食のうえ点滴で抗菌薬を投与し、膿瘍が大きい場合にはCTガイド下ドレナージを検討します。穿孔に伴う汎発性腹膜炎では緊急手術が行われます。
炎症がおさまったあとの大腸カメラ検査
急性期の治療が落ち着いたら、大腸カメラ検査を行うことが望ましいとされています。AGAは炎症の消退から6〜8週間後の実施を推奨しており、目的は憩室の位置や数の把握に加え、大腸がんなどほかの病変が隠れていないかを確認することです。大腸がんが憩室炎に似た症状を示す場合があるため、炎症が治まったタイミングで内視鏡検査を行うのが大切です。
再発を防ぐための生活習慣
大腸憩室炎は一度発症すると再発する方が一定数います。再発予防には、食物繊維を十分に摂る(野菜、海藻、きのこ類)、水分をしっかり補給する、排便時に強くいきまない習慣をつけることが推奨されます。適度な運動も腸の動きを整えるうえで有効です。肥満の改善、禁煙、NSAIDsの見直しも再発リスクの低減につながります。
大腸憩室症と大腸憩室炎の比較
| 項目 | 大腸憩室症(慢性) | 大腸憩室炎(急性) |
|---|---|---|
| 状態 | 大腸壁に憩室がある | 憩室に炎症が起きている |
| 症状 | 多くは無症状 | 腹痛、発熱、食欲低下 |
| 発見のきっかけ | 大腸カメラ・CT検査で偶然発見 | 腹痛で受診し、CT検査で診断 |
| 治療 | 基本的に治療不要(食生活の工夫) | 抗菌薬、食事制限、重症例は入院・手術 |
| 検査の優先順位 | 大腸カメラで経過観察 | まずCT検査(急性期の内視鏡は避ける) |
| 合併症リスク | 低い(憩室出血のリスクは残ります) | 膿瘍、穿孔、腹膜炎のリスクあり |
参考文献
※本記事テーマに関連する主な参考資料
- Sartelli M, et al. 2020 update of the WSES guidelines for the management of acute colonic diverticulitis in the emergency setting. World J Emerg Surg. 2020;15(1):32. doi:10.1186/s13017-020-00313-4
- Schultz JK, et al. European Society of Coloproctology: guidelines for the management of diverticular disease of the colon. Colorectal Dis. 2020;22(Suppl 2):5-28. doi:10.1111/codi.15140
- Weinstein S, et al. ACR Appropriateness Criteria® Left Lower Quadrant Pain: 2023 Update. J Am Coll Radiol. 2023;20(11S):S471-S480. doi:10.1016/j.jacr.2023.08.013
- Hall J, et al. The American Society of Colon and Rectal Surgeons Clinical Practice Guidelines for the Treatment of Left-Sided Colonic Diverticulitis. Dis Colon Rectum. 2020;63(6):728-747. doi:10.1097/DCR.0000000000001679
- 急性腹症診療ガイドライン2025 改訂出版委員会(編). 急性腹症診療ガイドライン2025 第2版. 医学書院, 2025.
よくある質問
- Q. 大腸憩室があると言われましたが、憩室炎になる確率はどのくらいですか?
- A. 大腸憩室をお持ちの方のうち、憩室炎を発症するのは数%程度と考えられています(報告により1〜5%と幅があります)。多くの方は無症状のまま経過しますが、食事や排便習慣に気をつけることで発症リスクを下げることが期待できます。
- Q. 憩室炎の診断にはCT検査以外の方法はありますか?
- A. 腹部超音波検査(エコー)も補助的に使われることがあります。ただし、体型や腸管ガスの影響で見えにくい場合があるため、CT検査のほうが診断精度は高いと考えられています。触診や血液検査を組み合わせて総合的に判断します。
- Q. 憩室炎の急性期に大腸カメラを受けてはいけないのですか?
- A. 急性期に大腸カメラを行うと、炎症部位を刺激して穿孔のリスクが高まる可能性があるため、通常は避けます。AGA(米国消化器病学会)は、炎症がおさまってから6〜8週間後に大腸カメラを行うことを推奨しています。
- Q. 大腸憩室炎と虫垂炎はどう見分けるのですか?
- A. 右側の憩室炎は虫垂炎と症状が似ることがあり、身体の診察だけでは区別が難しい場合があります。CT検査で憩室周囲の炎症所見と虫垂の状態を確認することで、多くのケースで鑑別が可能です。
- Q. 憩室炎は食事で予防できますか?
- A. 食物繊維を十分に摂ることで腸内圧の上昇を抑え、憩室炎の予防につながるとAGAのガイダンスでも推奨されています。野菜、海藻、きのこ類を意識的に取り入れ、水分もしっかり補給してください。かつて避けるべきとされていたナッツや種子類は、現在のエビデンスでは制限の必要はないと考えられています(NICE NG147)。
- Q. 一度憩室炎になったら再発しやすいですか?
- A. 再発率は報告によって差がありますが、初回発症から5年以内に約20%前後の方が再発するとの報告があります。生活習慣によって個人差が大きいため、食生活の見直し、適度な運動、禁煙、NSAIDs(痛み止め)の漫然使用を避けることが大切です。
- Q. 野々市中央院でCT検査はすぐに受けられますか?
- A. 当院では腹部CT検査に対応しており、症状や診察所見から必要と判断した場合、当日検査・当日結果説明が可能です。急な腹痛で受診された場合も、CT検査を含めた精査を行える体制を整えています。
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