肥満と糖尿病はなぜつながる? 脂肪肝・内臓脂肪から肝臓専門医が解説
健診で「血糖値が高め」「肝機能に異常あり」と同時に指摘され、どちらから手をつけるべきか迷っていませんか。肥満と糖尿病は別々の問題に見えて、体の中では内臓脂肪と肝臓を介して密接につながっています。この記事では、消化器・肝臓専門医の立場から、肥満がどのように糖尿病を引き寄せるのか、そして健診後にまず確認しておきたいことを整理します。
この記事のポイント
- 内臓脂肪の蓄積がインスリン抵抗性を高め、糖尿病の発症リスクを上げる仕組みを解説
- 脂肪肝(MASLD)は肥満と糖尿病の「中継点」として注目されている
- 消化器内科では血液検査・腹部エコー・フィブロスキャンで肝臓と代謝の状態をまとめて評価できる
- 当院では管理栄養士による栄養指導も受けられる
内臓脂肪がインスリンの働きを妨げる仕組み
内臓脂肪型肥満とインスリン抵抗性
肥満にはお腹まわりに脂肪がつく「内臓脂肪型」と、皮膚の下に脂肪がたまる「皮下脂肪型」があります。糖尿病との関連が深いのは内臓脂肪型です。内臓脂肪の細胞からは、インスリンの効きを悪くする物質(TNF-α、レジスチンなど)が分泌されます。その結果、膵臓がインスリンを十分に出していても血糖値が下がりにくくなる「インスリン抵抗性」が生じます。
東アジア人では、欧米人より低いBMIでも内臓脂肪蓄積や糖尿病リスクが高まりやすいことが知られています。「見た目はそこまで太っていないのに血糖値が高い」という方は、内臓脂肪が背景にある可能性があります。
膵臓への負担が重なるとき
インスリン抵抗性が続くと、膵臓はそれを補おうとしてインスリンを大量に出し続けます。この状態が長期化すると、膵臓のβ細胞が疲弊し、やがてインスリンの分泌そのものが減り始めます。ここが「肥満→糖尿病」へ移行する分岐点です。健診でHbA1c 5.6〜5.9%を指摘された場合、将来の糖尿病発症リスクが高い群とされており、追加評価や生活習慣の見直しが勧められる段階です。
脂肪肝(MASLD)は肥満と糖尿病の中継点
お酒を飲まなくても脂肪肝になる
「脂肪肝はお酒を飲む人の病気」というイメージは過去のものです。現在は、肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧などの代謝異常を背景に起こる脂肪肝を「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」と呼びます。日本では脂肪肝の有病率は概ね20〜40%とされ、メタ解析では25.5%と報告されており、その多くが飲酒とは無関係です。
肝臓は血糖をコントロールする臓器でもあります。肝臓に脂肪がたまるとインスリンの効きがさらに悪くなり、糖尿病の発症リスクが約2倍に高まるとするメタ解析があります。つまり脂肪肝は、肥満と糖尿病をつなぐ「中継点」のような存在です。
脂肪肝を放置すると何が起こるか
脂肪肝の一部はMASH(代謝性脂肪肝炎)に進み、肝臓の線維化が進行します。線維化が進むと肝硬変、さらに肝がんへと発展するリスクがあります。また、MASLDは大腸がんや膵臓がんなどの肝外がんとの関連が報告されています。「脂肪肝くらい大丈夫」と思わず、肝臓の状態を一度きちんと調べておくことが、糖尿病の予防にもつながります。
健診で異常を指摘されたら確認しておきたいこと
血液検査で分かる代謝の全体像
血糖値やHbA1cだけでなく、肝機能(AST・ALT・γ-GTP)、脂質(LDLコレステロール・中性脂肪・HDLコレステロール)、腎機能、尿酸値を一緒に確認することで、体の中で何が起きているかの輪郭が見えてきます。たとえばALTが30 U/Lを超えている場合、日本肝臓学会の「奈良宣言」では肝臓専門医への相談が推奨されています。
腹部エコーとフィブロスキャンで肝臓を評価する
脂肪肝の有無は腹部エコーで確認できます。当院ではさらに、フィブロスキャンに対応しており、肝臓の脂肪量(CAP値)と硬さ(線維化度)を非侵襲的に数値で測定できます。痛みはなく、数分で終わる検査です。
「血糖値も肝機能も両方引っかかった」という方は、血液検査と画像検査をまとめて受けることで、今の体の状態を正確に把握できます。健診結果をお持ちいただければ、初回の判断がスムーズです。
健診で血糖値や肝機能の異常を指摘された方は、まず診察で現在の状態を確認できます。
食事・運動で肥満と糖尿病のリスクを同時に下げる
体重の7%前後の減量がもたらす効果
糖尿病診療ガイドライン2024では、過体重・肥満を伴う2型糖尿病(またはその予備群)に対して、エネルギー摂取量の制限を含む生活習慣への介入が推奨されています。米国の大規模研究(DPP)では、体重を7%減らすことを目標にした生活介入群で糖尿病の発症リスクが約58%低下したと報告されました。70kgの方なら約5kgの減量に相当します。
この減量幅は脂肪肝の改善にも有効とされています。つまり、適切な食事と運動による減量は、糖尿病予防と脂肪肝改善を同時に実現できる可能性があるということです。
当院の管理栄養士による栄養指導
当院には管理栄養士が複数名在籍しており、糖尿病や脂肪肝の治療目的で栄養指導を行っています。「外食が多い」「家族の食事と自分の食事を分けるのが難しい」といった事情に合わせて、続けやすい食事の工夫を一緒に考えます。栄養指導についてはご希望を受診時にお伝えください。
食事・運動で改善が難しい場合の選択肢
薬物療法による肥満治療
食事と運動を3か月以上続けても十分な効果が得られない場合、薬物療法が選択肢に入ります。当院では、脂肪肝と肥満を合併している方を対象に、マンジャロ(チルゼパチド)を用いた肥満外来を開設しています。フィブロスキャンで肝臓の変化を数値で追跡しながら治療を進めるのが特徴です。詳しくはマンジャロ肥満外来の記事をご覧ください。
糖尿病の治療は並行して進められる
すでに血糖値が糖尿病の基準を超えている方には、血糖降下薬の処方やインスリン治療が必要になることがあります。当院では糖尿病の内服治療にも対応しており、肝臓の管理と合わせて診療を進められます。糖尿病治療の詳細は当院の糖尿病治療ページでご確認いただけます。
よくある質問
- Q. 健診で血糖値と肝機能の両方を指摘されました。どちらを先に受診すべきですか?
- A. 同じ受診で両方を評価できます。当院では血液検査と腹部エコーを同日に行えるため、肝臓と血糖の状態をまとめて確認できます。まず健診結果をお持ちのうえ受診してください。
- Q. 脂肪肝があると糖尿病になりやすいのですか?
- A. 脂肪肝があるとインスリンの効きがさらに悪くなるため、糖尿病の発症リスクが約2倍に高まるとするメタ解析があります。脂肪肝を早期に見つけて改善することは、糖尿病予防にもつながります。
- Q. BMIが25未満でも内臓脂肪が多いことはありますか?
- A. あります。東アジア人は欧米人と比べて低いBMIでも内臓脂肪がつきやすい傾向があり、「やせ型脂肪肝」も珍しくありません。見た目の体型だけで判断せず、腹部エコーや血液検査で確認することが大切です。
- Q. フィブロスキャンとはどのような検査ですか?
- A. 体の表面からプローブをあてるだけで、肝臓の脂肪量と硬さ(線維化度)を数値で測定できる検査です。痛みはなく、数分で終わります。当院ではフィブロスキャンに対応しています。
- Q. 栄養指導は誰が行いますか?予約は必要ですか?
- A. 管理栄養士が個別に行います。医師の診察で栄養指導が必要と判断された場合にご案内します。ご希望の方は受診時にお伝えください。
まとめ
肥満と糖尿病のつながりは、内臓脂肪と肝臓を介して想像以上に深いものです。健診で血糖値や肝機能に異常が見つかったとき、「どちらか一方だけ」ではなく、体の代謝全体を見渡す視点が必要です。特に脂肪肝は、肥満から糖尿病へ進むルートの中継点であり、この段階で手を打てるかどうかが大きな分かれ道になります。
当院では血液検査、腹部エコー、フィブロスキャン、栄養指導を組み合わせて、肝臓と代謝の状態をまとめて評価できます。健診結果を持って一度受診いただくことで、今の自分の体で何が起きているのか、そしてまず何から始めればよいのかが見えてきます。
参考文献
- 厚生労働省「糖尿病対策」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/tounyoubyou/index.html
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第1章 糖尿病診断の指針 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/01.pdf
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第13章 肥満を伴う糖尿病 https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/13_1.pdf
- Knowler WC et al. Reduction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or metformin. N Engl J Med. 2002;346(6):393-403. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11832527/
- Ma RCW, Chan JCN. Type 2 diabetes in East Asians: similarities and differences with populations in Europe and the United States. Ann N Y Acad Sci. 2013;1281(1):64-91. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23551121/
- Mantovani A et al. Non-alcoholic fatty liver disease and risk of incident diabetes mellitus: an updated meta-analysis of 501,022 adult individuals. Gut. 2021;70(5):962-969. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32938692/
- Zhou BG et al. Association of MASLD with the risk of extrahepatic cancers: A systematic review and meta-analysis of 18 cohort studies. J Hepatol. 2024. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38943276/
- Fujii H et al. Prevalence of and risk factors for non-alcoholic fatty liver disease in the Japanese population: A meta-analysis. Hepatol Res. 2023. https://www.j-smarc.org/smarc/wp-content/uploads/2023/07/Hepatology-Research-2023-Fujii.pdf
- 日本肝臓学会 奈良宣言特設サイト(医療関係者向け) https://www.jsh.or.jp/medical/nara_sengen/iryou.html
- 肝炎情報センター「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 https://www.kanen.jihs.go.jp/cont/010/shibousei.html
当院で相談する目安
健診で血糖値が高め(HbA1c 5.6%以上)と指摘された方、肝機能異常(ALT 30 U/L超)を指摘された方、両方が同時に見つかった方は、一度まとめて評価を受けておくと安心です。体重が気になるけれど何から始めればよいか分からないという方や、家族に糖尿病の方がいて自分も心配だという方も、まず診察で現状を把握するところから始められます。野々市中央院は腹部エコー・フィブロスキャン・血液検査・栄養指導を同院で受けられます。
血糖値や肝機能が気になる方へ──まず肝臓と代謝の状態を確認しませんか
健診結果をお持ちいただくと、初回の評価がスムーズに進みます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。症状や検査の要否については、医師にご相談ください。







