睡眠時無呼吸症候群と不整脈の関係|夜の低酸素が心臓リズムを乱す仕組み
「寝ているとき、急に脈がバラバラになっていて怖かった」——ご家族からそう相談されるケースが、当院でも増えています。夜間の動悸や脈の乱れは、加齢やストレスだけが原因とは限りません。実は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)による低酸素状態が心臓のリズムを狂わせている場合があります。
この記事では、なぜ眠っている間に不整脈が起きるのか、そのメカニズムを中心に、ご家族と一緒に知っておきたい基礎知識をまとめました。
この記事で分かること
この記事のポイント
- 睡眠時無呼吸症候群が不整脈を引き起こす3つのメカニズム
- 低酸素と交感神経の関係——なぜ夜に心臓が乱れるのか
- 心房細動とSASの合併率が高い理由
- 家族が気づける「夜間の危険サイン」
- 当院で受けられるSAS簡易検査の流れ
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは——呼吸が止まる病気の基本
睡眠中に繰り返される「窒息と覚醒」
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に気道がふさがり、10秒以上の無呼吸や呼吸の浅い状態(低呼吸)が1時間あたり5回以上繰り返される疾患です。医学的には、この頻度(AHI 5以上)に加えて日中の眠気や高血圧などの症状・併存疾患が認められる場合にSASと診断されます。脳が酸素不足を感知すると、体を覚醒させて呼吸を再開させますが、本人は目が覚めた自覚がないことも多く、「十分寝ているのに疲れがとれない」という訴えにつながります。
自覚症状がないまま進行する
SASの厄介な点は、本人よりも隣で寝ている家族のほうが先に異変に気づくことです。「いびきが途中で止まって、しばらくしてからガハッと再開する」という家族の証言は、診断の大きな手がかりになります。野々市市や白山市から来院される方のなかにも、ご家族に勧められて受診される方が少なくありません。
夜間の低酸素が心臓のリズムを乱す3つの経路
交感神経の活性化——酸素が下がるたびに心臓が追い込まれる
無呼吸が起きて血液中の酸素濃度が下がると、脳は「危険だ」と判断して交感神経を一気に活性化させます。心拍数が上がり、血圧も急上昇します。呼吸が再開すると今度は副交感神経が急激に働き、心拍が落ちる。この「アクセルとブレーキの急な切り替え」が一晩に何十回と繰り返されるため、心臓の電気信号が安定を保てなくなります。
AHA(米国心臓協会)が2022年に発表したScientific Statement(Mehraら、Circulation)でも、自律神経の乱れがSASにおける不整脈の主な引き金のひとつとして整理されています。
胸腔内圧の変動——物理的に心房が引き伸ばされる
気道がふさがった状態で呼吸しようともがくと、胸のなかに強い陰圧がかかります。この圧力変動が心房(心臓の上の部屋)を物理的に引き伸ばし、電気信号の伝わり方を乱します。心房が繰り返し変形を受けると、正常なリズムを刻みにくくなるのです。
間欠性低酸素による慢性炎症と線維化
毎晩「酸素が下がって回復する」というサイクルが続くと、心房の組織に慢性的な炎症が起き、やがて線維化(組織が硬くなる変化)が進みます。硬くなった心房は電気信号が不規則に伝わりやすく、不整脈の「土壌」ができあがっていきます。この変化はすぐには症状として現れないため、気づいたときにはかなり進んでいた、というケースもあります。
心房細動とSAS——なぜこれほど合併率が高いのか
心房細動患者の大多数にSASが見つかる
不整脈のなかでもSASとの関連がとくに深いのが心房細動です。Tanakaらの研究(Circulation Journal、2021年)によると、カテーテルアブレーション前の心房細動患者776名に睡眠検査を行ったところ、AHI 5以上(SASの診断基準)を満たした方が全体の約88%にのぼりました。注目すべきは、その多くが日中の眠気を自覚していなかったという点です(ESSスコア正常が約82%)。
この数値はアブレーション予定の単施設の患者さんに限った報告であり、心房細動の患者さん全般にそのまま当てはめることには注意が必要です。ただ、他の研究でも心房細動患者のSAS合併率は研究条件によって50〜80%超と幅はあるものの、一貫して高い傾向が示されています。
心房細動がもたらす脳梗塞リスク
心房細動そのものの怖さは、動悸よりも脳梗塞リスクにあります。心房が正しく収縮しなくなると血液が淀み、血栓(血のかたまり)ができやすくなります。その血栓が脳の血管に詰まると脳梗塞を引き起こします。心房細動による脳梗塞は、血管が細くなって起きるタイプよりも重症化しやすいとされています。
SASの治療が心房細動の再発予防にも寄与する可能性が複数の観察研究やメタ解析で示唆されています。ただし、高水準のランダム化比較試験(RCT)では結論が一様でない部分もあり、現時点では「SAS治療は心房細動管理の重要な一部」と位置づけるのが妥当です。詳しいメカニズムや研究データは、当法人の専門解説記事「睡眠中の動悸は危険?睡眠時無呼吸症候群と心房細動」でまとめています。
家族が気づける夜間の危険サインと受診のきっかけ
こんな場面を見かけたら要注意
SASによる不整脈は、本人には自覚しにくい場合があります。むしろ、一緒に暮らすご家族が気づくケースが多いのが特徴です。「いびきが止まったあと、しばらく呼吸がない」「夜中に息苦しそうにしている」「朝起きたとき、妙に疲れた顔をしている」——こうしたサインが繰り返し見られるなら、SASの検査を勧めてみてください。
夜中に動悸で目が覚める場合
ご本人が「寝ているときに心臓がバクバクして目が覚めた」と訴える場合は、無呼吸による覚醒反応の一環として動悸が起きている可能性があります。脈のリズムが不規則に感じられるときは心房細動の疑いもあるため、早めに医療機関を受診してください。
当院でのSAS検査——自宅でできる簡易検査から始められます
簡易検査(HSAT)の流れ
当院では、まず自宅で行う簡易検査からスタートします。指先のパルスオキシメータ、鼻の気流センサー、胸部の呼吸努力ベルトなど複数のセンサーを装着して一晩眠るだけです。痛みはなく、翌日の生活に影響しません。検査機器は診察時にお渡しし、数日後に結果を説明します。野々市市・白山市・能美市にお住まいの方はもちろん、金沢市内からもお車で通いやすい立地です。
検査結果と次のステップ
簡易検査の結果、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の指数(簡易検査ではREIと呼ばれますが、保険上はAHIと表記されます)が40以上の場合は、精密検査(PSG)を経ずにSASと診断し、CPAP療法を保険適用で開始できます。40未満でも症状がある場合は、近隣の連携医療機関での精密検査をご紹介します。不整脈が疑われる場合は、循環器内科への紹介も行います。
検査の具体的な手順や費用については、「SAS簡易検査の自宅でのやり方|機器の装着手順と結果の読み方」で詳しく解説しています。
よくある質問
- Q. 睡眠時無呼吸症候群があると必ず不整脈になりますか?
- A. 必ずではありません。ただし、SAS患者は不整脈(とくに心房細動)のリスクが高いことが複数の研究で報告されています。脈の乱れを感じる方は検査をお勧めします。
- Q. 家族のいびきが気になりますが、本人は「大丈夫」と言っています。受診を勧めるべきですか?
- A. いびきの途中で呼吸が止まる、日中に強い眠気がある、朝の頭痛が続くなどの兆候があれば、SASの可能性があります。ご本人に自覚がなくても、ご家族の気づきが早期発見につながるケースは多いです。
- Q. 簡易検査だけで不整脈もわかりますか?
- A. SASの簡易検査は呼吸状態と血中酸素濃度を測定するもので、不整脈の診断には心電図検査が必要です。SASが判明した場合、不整脈の精査として循環器内科へご紹介する場合があります。
- Q. CPAP治療で不整脈は改善しますか?
- A. 観察研究やメタ解析では、CPAPの使用により心房細動の再発率が低下する傾向が示唆されています。ただし高水準のランダム化比較試験(RCT)では結論が一様でなく、個人差もあります。不整脈の治療は循環器内科と連携して進める必要があり、SASの治療は不整脈管理の重要な一部と位置づけられています。
- Q. 高血圧の薬を飲んでいますが、SASの検査も受けたほうがよいですか?
- A. 降圧薬を複数使っても血圧が下がりにくい場合、背景にSASが隠れている可能性があります。SASの治療で血圧が改善するケースもありますので、一度ご相談ください。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
- Q. 検査費用はどのくらいですか?
- A. 簡易検査は保険適用で、3割負担の方で約2,700〜3,000円が目安です。CPAP療法は月額約4,500〜5,000円(3割負担)です。いずれも診察料等により前後する場合があります。精密検査が必要な場合は別途費用がかかりますが、事前にご説明いたします。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群による夜間の低酸素は、交感神経の乱れ、胸腔内圧の変動、心房の慢性炎症という3つの経路で心臓のリズムを崩します。とくに心房細動との合併率は高く、放置すると脳梗塞のリスクにもつながります。ご本人に自覚がなくても、家族のいびきや無呼吸を目にしたことがある方は、その気づきが早期発見への第一歩です。
SASの簡易検査は自宅で痛みなく行え、必要に応じてCPAP療法や循環器内科との連携で治療を進められます。「夜中に心臓がバクバクする」「いびきが途中で止まる」など思い当たる症状がある方は、早めに消化器内科へご相談ください。
参考文献
※本記事テーマに関連する主な参考資料
- Mehra R, Chung MK, Olshansky B, et al. Sleep-Disordered Breathing and Cardiac Arrhythmias in Adults: Mechanistic Insights and Clinical Implications (AHA Scientific Statement). Circulation. 2022;146(9):e119–e136. https://doi.org/10.1161/CIR.0000000000001082
- 日本循環器学会. 2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_kasai.pdf
- Tanaka N, Tanaka K, Hirao Y, et al. Home Sleep Apnea Test to Screen Patients With Atrial Fibrillation for Sleep Apnea Prior to Catheter Ablation. Circ J. 2021;85:252–260. https://doi.org/10.1253/circj.CJ-20-0782
- Gami AS, Howard DE, Olson EJ, Somers VK. Day-Night Pattern of Sudden Death in Obstructive Sleep Apnea. N Engl J Med. 2005;352(12):1206–1214. https://doi.org/10.1056/NEJMoa041832
当院で相談する目安
夜中に動悸で目が覚めることがある方、ご家族から「寝ている間に呼吸が止まっている」と指摘されたことがある方、いびきと日中の眠気が重なっている方は、SASの検査を検討してみてください。当院(金沢消化器内科・内視鏡クリニック野々市中央院)では、自宅でできる簡易検査からCPAP治療まで対応しています。女性医師も在籍しており、女性の方も安心してご相談いただけます。野々市市・金沢市・白山市・能美市からお車でお越しいただきやすい立地です。不整脈の精査が必要な場合は、循環器内科への紹介もスムーズに行います。
いびきや夜間の動悸が気になる方へ——まずは自宅でできる簡易検査から始めませんか
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。症状や検査の要否については、医師にご相談ください。






