CPAP治療が続かない原因と家族で取り組む習慣化のコツ
「CPAP治療を始めたけれど、気づけば使わない日のほうが多くなっている」「マスクの調整は試したけれど、それでも続かない」――そんなお悩みを抱えていませんか。
CPAP(シーパップ)は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)に対して高い効果が認められた治療法ですが、毎晩マスクをつけて眠る生活を長く続けるのは決して簡単ではありません。実際に、世界中の研究で「治療を十分に続けられていない方が一定割合いる」ことが繰り返し報告されています。
続かない理由は、マスクの不快感だけとは限りません。「効果が実感しにくい」「ひとりで続ける治療は孤独」「生活リズムに組み込めない」など、心理面や生活環境に原因があることも少なくないのです。
この記事では、機器の物理的な調整とは違う視点から、CPAPが続かなくなる原因を整理し、家族と一緒に治療を習慣にしていくための5つの工夫をご紹介します。当院は野々市市にあり、お隣の金沢市や白山市をはじめ、能美市、小松市、加賀市などからも多くの方がご相談に来られています。CPAPの継続でお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
この記事のポイント
- CPAPが続かない理由は、マスクの不快感だけでなく「効果の実感しにくさ」「孤独な治療環境」「生活リズムとの不一致」にもあります
- CPAP中断後、数日以内に無呼吸が再発し、日中の眠気や血圧上昇が戻ることが研究で確認されています
- パートナーや家族と同居している方はCPAPアドヒアランスが高い傾向があり、家族の理解と協力が治療継続の大きな力になります
- 毎月の通院は「治療の見直しの場」として活用でき、オンライン診療の選択肢も広がっています
- マスクの種類や圧力の調整については、こちらの記事もあわせてご覧ください
CPAPが続かない「本当の理由」を考える
CPAPの継続を妨げる要因としてまず思い浮かぶのは、マスクの跡が残る、口が乾く、息苦しいといった身体的な不快感でしょう。もちろんこれらは大きなハードルですが、機器を調整しても続かないケースでは、別の理由が隠れていることがあります。
「よくなった実感」がないまま続ける苦しさ
CPAPの効果は「無呼吸を防ぎ、酸素濃度の低下を抑える」という、目に見えないところで発揮されます。日中の眠気が劇的に改善する方がいる一方で、「劇的な変化を感じない」という方も少なくありません。毎晩マスクをつけるわずらわしさだけが残り、治療を続ける動機が薄れていく。これは珍しいことではなく、アドヒアランス研究でも「治療効果の自覚の乏しさ」が中断要因として挙げられています。
「自分だけが我慢している」という孤立感
CPAPは自宅の寝室で、基本的にひとりで行う治療です。家族が寝ている間に装着し、朝には外す。その過程で困ったことがあっても、次の受診まで誰にも相談できないまま日が過ぎる。「面倒だからもういいか」と思うのは、意志の弱さではなく、孤独な治療環境が生み出す自然な反応です。
生活リズムの中に「CPAP」の居場所がない
残業で帰宅が遅い日、疲れ切って倒れるように寝てしまう日、旅行先でセットが面倒な日。毎晩の習慣として定着していない段階では、こうしたイレギュラーが重なるだけで簡単に途切れます。歯磨きのように「やらないと気持ち悪い」というレベルに達するまでには、環境づくりが必要です。
治療を中断するとどうなるか
CPAP治療は「使っている間だけ気道を確保する」対症療法です。装置を外した夜から、無呼吸は元どおりに戻ります。
CPAP中断後の影響を調べた研究(Kohlerら, 2011)では、使用をやめて数日以内に無呼吸が再発し、日中の眠気や血圧の上昇が確認されました。長期的にみても、未治療の重症SAS患者では高血圧、脳卒中、心筋梗塞といった心血管疾患のリスクが高まることが複数の疫学研究で報告されています(日本呼吸器学会 SAS診療ガイドライン2020)。
「調子がいいから」と自己判断で中断するケースもありますが、調子がいいのはCPAPが効いている結果である可能性があります。中断を考える場合は、必ず担当医に相談してください。
家族と一緒に取り組む5つの習慣化のコツ
CPAPの継続には、本人の努力だけでなく、一緒に暮らす家族の理解と協力が大きく影響します。米国睡眠医学会(AASM)の報告でも、パートナーや家族と同居している患者はCPAPアドヒアランスが高い傾向があるとされています。教育的・行動的支援がCPAP継続率を改善することは、コクランレビュー(Asklandら, 2020)でも確認されています。
ここでは、実際に取り入れやすい工夫を5つ紹介します。
コツ① 病気と治療の意味を家族で共有する
「なぜ毎晩マスクをつけなければならないのか」を、家族がきちんと理解しているかどうかは大きなポイントです。睡眠時無呼吸症候群は見た目にはわかりにくい病気ですが、放置すれば心血管疾患のリスクを高めます。睡眠時無呼吸症候群の基礎知識をまとめた記事を家族に読んでもらうのもひとつの方法です。受診時に家族も一緒に医師の説明を聞く機会をつくると、「なんとなく大げさな治療をしている」という誤解が解けやすくなります。
コツ② 就寝前の「セットタイム」を一緒に決める
CPAPの装着は、寝室に入ってから慌てて行うよりも、就寝前のルーティンの一部に組み込むほうが定着しやすくなります。たとえば「22時になったら歯磨き→CPAP準備→就寝」という流れを家族と共有し、その時間は家族もテレビを消す、照明を落とすなど、協力しやすい環境をつくります。
コツ③ 朝のフィードバックを声に出す
「昨日はいびきが静かだったよ」「呼吸が止まっている感じがなかった」。こうした家族からの言葉は、本人にとって治療効果を実感する貴重な手がかりになります。CPAPの効果は本人には自覚しにくいものですが、隣で眠っている人には違いがわかることがあります。良い変化を伝えてもらえるだけで、続けるモチベーションは変わります。
コツ④ 「使えなかった日」を責めない
疲れて装着せずに眠ってしまった日もあるでしょう。そのたびに自分を責めたり、家族から指摘されたりすると、CPAP自体がストレスの種になってしまいます。完璧を求めず、「使えた日が1日でも増えればよい」というスタンスのほうが長続きします。医学的にも、1日4時間以上の使用が心血管保護に寄与するとされていますが(Patilら, 2019)、まずは「昨日より少し長く」を目標にすれば十分です。
コツ⑤ 困りごとを受診前にメモしておく
月に一度の受診は、使用状況を医師に報告するだけの場ではありません。「マスクが気になって寝つけない」「途中で外してしまう」「旅行先ではどうすればいいか」など、気になることを事前にメモしておくと、短い診察時間でも具体的な対策を相談しやすくなります。家族が気づいたことも一緒に書き出しておくと、より的確なアドバイスが得られるはずです。
毎月の通院を「治療の見直しの場」にする
CPAP治療を保険適用で続けるには、毎月の通院が制度上の条件です。忙しい方にとっては負担に感じるかもしれませんが、この通院は「CPAPの使い方を見直すチャンス」でもあります。
受診時には、CPAPに記録されたデータ(使用時間、リーク量、残存AHIなど)を医師が確認します。「マスクの漏れが多い夜が続いている」「使用時間が短い日が増えている」といった傾向が数字でわかるため、具体的な改善策を相談しやすくなります。
また、2024年度の診療報酬改定により、オンライン診療によるCPAP管理が正式に認められました。対応している医療機関であれば、毎月の来院負担を軽減できる可能性があります。通院がネックでCPAPを中断しそうな方は、オンライン対応の可否を受診先に確認してみてください。
なお、CPAPをお腹の張りやゲップが気になって中断してしまう方もいます。これはエアロファジア(呑気症)と呼ばれる症状で、マスクのフィッティングや圧力設定の調整で改善できることがあります。思い当たる方は治らない胸焼けと睡眠時無呼吸症候群の関連を解説した記事もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
- Q. CPAPは一生続けなければいけませんか?
- A. CPAPは使用中のみ気道を開く対症療法のため、基本的には継続が前提です。ただし、減量などによってAHIが十分に改善した場合は、医師の判断で終了できることもあります。自己判断での中断は避けてください。
- Q. 家族にいびきがうるさいと言われました。CPAPで静かになりますか?
- A. CPAPは気道を確保していびきの原因となる振動を抑えるため、多くの場合いびきは軽減します。ただし、マスクからの空気漏れ(リーク)が大きいと別の音が発生することがあります。フィッティングの調整で改善できることが多いので、気になる場合は受診時にご相談ください。
- Q. CPAPをつけたまま横向きで寝ても大丈夫ですか?
- A. 横向き寝はCPAP使用中でも問題ありません。むしろ、仰向けよりも気道が開きやすくなることがあります。マスクがずれやすい場合は、鼻ピロータイプへの変更やストラップの調整が有効なことがあります。
- Q. 使わなかった日が続くと保険が切れますか?
- A. CPAP保険適用の継続には、定期的な受診が条件です。使用日数そのものが保険適用の即時取消しにつながるわけではありませんが、長期間受診がなければ保険適用が維持できなくなる場合があります。通院が難しいときは、オンライン診療の活用も検討してみてください。
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参考文献
- 日本呼吸器学会(編). 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020. 南江堂, 2020.(ISBN 978-4-524-24533-8)
- Patil SP, et al. Treatment of Adult Obstructive Sleep Apnea with Positive Airway Pressure: An AASM Clinical Practice Guideline. J Clin Sleep Med. 2019;15(2):335–343. doi:10.5664/jcsm.7640
- Weaver TE, Grunstein RR. Adherence to CPAP Therapy: The Challenge to Effective Treatment. Proc Am Thorac Soc. 2008;5(2):173–178. doi:10.1513/pats.200708-119MG
- Askland K, et al. Educational, Supportive and Behavioural Interventions to Improve Usage of CPAP Machines in Adults with OSA. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Apr 7;4(4):CD007736. doi:10.1002/14651858.CD007736.pub3






