腸内環境を整えると花粉症は楽になる?専門医が乳酸菌のエビデンスを解説
「ヨーグルトを食べれば花粉症が治る」——テレビや雑誌でこうした情報を見かけて、本当なのか気になっている方は多いのではないでしょうか。健診の結果をきっかけに当院を受診されるご家族のなかにも、「花粉の時期、食事で何か工夫できませんか」とお尋ねになる方がいらっしゃいます。この記事では、花粉症と腸内環境の関係について、近年の研究データをもとに消化器内科の視点で整理しました。
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この記事のポイント
- 腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸は、免疫のバランス調整に関わっている
- プロバイオティクス(乳酸菌・ビフィズス菌)のメタ解析では、花粉症の症状スコアとQOLに小〜中程度の改善が報告されているが、エビデンスの確実性は低い
- 菌株の選び方と摂取時期が大切で、標準治療(抗ヒスタミン薬など)の補助として位置づけるのが現実的
- 当院では腸内フローラ検査で、ご自身の腸内環境を客観的に確認できる
なぜ「腸」が花粉症に関係するのか——免疫と腸内細菌のつながり
体の免疫細胞の多くは腸に集中している
花粉症はスギやヒノキなどの花粉に対してIgE抗体が過剰に反応し、くしゃみ・鼻水・目のかゆみを引き起こすアレルギー疾患です。2019年の全国疫学調査では、スギ花粉症の有病率は38.8%と報告されました(松原篤ほか, 日耳鼻 2020)。
一見すると鼻や目の病気に思えますが、アレルギー反応を起こす免疫細胞の多くは腸の粘膜に集まっています。腸にはパイエル板と呼ばれるリンパ組織があり、外部から侵入する異物を監視する免疫の拠点として機能しています。
短鎖脂肪酸がアレルギー反応を抑える経路——動物実験段階のデータ
腸内細菌は食物繊維を分解して酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)をつくります。マウスを用いた研究(Trompette A, et al. Nat Med 2014;20:159-166)では、高食物繊維食を与えると腸内細菌叢のバランスが変化し、SCFAの産生が増え、制御性T細胞(Treg)の誘導を介してアレルギー性気道炎症が軽減されたと報告されています。
この知見はまだ動物実験レベルが中心であり、ヒトの花粉症で同じ経路が確立されたわけではありません。それでも、「腸内環境を整えれば花粉症も楽になるのでは」という仮説の科学的な出発点になっています。
乳酸菌・ビフィズス菌で花粉症は改善するか——菌株別の研究データ
メタ解析が示す「改善の方向性」とその限界
2022年に発表された系統的レビュー・メタ解析(Luo C, et al. Front Immunol 2022;13:848279)では、プロバイオティクスとアレルギー性鼻炎に関する28のランダム化比較試験(RCT)を統合しています。統合解析の結果、症状スコアの標準化平均差(SMD)は−0.29(95%CI: −0.44〜−0.13)、鼻炎に関するQOL(RQLQ)のSMDは−0.64(95%CI: −0.79〜−0.49)と、いずれもプロバイオティクス群で統計学的に有意な改善が認められました。
ただし、研究間の異質性が非常に高く(I²= 89〜97%)、使われた菌株・用量・期間・評価方法が試験ごとに大きく異なります。GRADE評価は症状・QOLのどちらも「非常に低い(very low)」です。「全体としては改善の方向を示しているが、どの菌株をどれくらい飲めばどの程度良くなるかは確定していない」——これが現時点で最も堅実な読み方です。
スギ花粉症で検討された主な菌株
日本発の臨床試験を含め、スギ花粉症に対するプロバイオティクスの研究がいくつか報告されています。代表的な菌株のデータを以下にまとめます。
| 菌株 | 試験の概要 | 報告された主な結果 | 研究の限界 |
|---|---|---|---|
| BB536(ビフィズス菌) | スギ花粉症成人対象のクロスオーバー試験。BB536粉末を約5×1010×2回/日、4週間投与(花粉曝露室で評価)(Xiao JZ, et al. Allergol Int 2007) | 眼症状スコアの改善(p=0.033)、活動支障スコアの改善(p=0.011)、薬剤使用日数の減少(p=0.041)が報告されている | 少人数のクロスオーバー試験。花粉曝露室での評価は実際の生活環境と条件が異なる |
| L-92(乳酸菌、加熱菌体) | スギ花粉症成人対象、6〜10週間投与(Ishida Y, et al. Biosci Biotechnol Biochem 2005) | 眼症状スコアの有意な改善(p<0.01)が報告されている | 小規模・単盲検試験でバイアスリスクが高め。定量的な効果サイズの推定が困難 |
| LP0132(乳酸菌、加熱菌体) | スギ花粉症成人42名対象。LP0132発酵柑橘ジュース100mL/日を8週間(Iino T, et al. Biosci Microbiota Food Health 2014) | 花粉ピーク直後にかゆみ症状(眼・皮膚)とQOLの一部改善、好酸球比率の低下が報告されている | 単盲検試験であり、図表中心の報告で臨床的差の定量が難しい |
いずれの菌株も「鼻づまりやくしゃみを劇的に止める」というよりは、眼の症状やかゆみ、薬の使用量、QOLの一部など限られた項目で差が見られるパターンです。鼻症状全体を強く一貫して改善するという結論には至っていません。(菌株による差が大きいため、今後の追試で結果が変わる余地はあります。)
「乳酸菌」とだけ書かれた製品では効果が読めない
臨床試験で検討された菌株と、市販のヨーグルトやサプリメントに含まれる菌株は必ずしも同じではありません。「乳酸菌配合」としか書かれていない製品では、どの菌株がどれくらい含まれているか判断できないため、試験結果をそのまま当てはめるのは難しくなります。購入前にパッケージや公式サイトで菌株名が明記されているかを確認するのが一つの目安です。
花粉症対策としてプロバイオティクスを取り入れるなら——始め方と注意点
花粉飛散前からの早めの摂取開始が合理的
臨床試験の多くは4〜12週間の投与期間で効果を評価しています。腸内環境の変化が免疫応答に反映されるまでにはある程度の時間がかかると考えられるため、花粉が本格的に飛び始める前——できれば数週間以上前からの摂取開始が合理的です。石川県のスギ花粉は年によって前後しますが、おおむね2月下旬ごろから飛散が始まります。逆算すると1月中には始めておくと余裕が持てます。ただし、最適な開始時期はまだ研究で確立されていません。
標準治療を置き換えるものではない
プロバイオティクスはあくまで補助的な位置づけです。花粉症の治療の柱は抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイドなどの標準治療で、重症度や症状タイプに合わせて処方を調整します。プロバイオティクスは、標準治療でおおむねコントロールできているものの「もう少し楽になりたい」「薬を減らせたらうれしい」という段階で試す価値がある選択肢です。
RCTの範囲では、プロバイオティクスに関連した重篤な有害事象はほとんど報告されていません。おもな副作用は腹部の張りや軟便程度です。一方、免疫不全がある方や重篤な基礎疾患のある方では、まれに菌血症などの報告があります。該当する方は自己判断での使用を避け、主治医にご相談ください。
食物繊維や発酵食品の日常的な摂取も土台になる
プロバイオティクスの効果を支えるのは、腸内細菌のエサとなる食物繊維です。水溶性食物繊維(わかめ・昆布・オーツ麦など)と不溶性食物繊維(ごぼう・豆類など)をバランスよく摂り、味噌・納豆・ヨーグルトといった発酵食品を日常的に取り入れることが、腸内環境全体の底上げにつながります。
ちなみに、こうした食習慣は花粉症対策に限らず、便秘や下痢の改善、免疫全般のサポートにも役立つため、花粉シーズンが終わったあとも続ける意味があります。
当院の腸内フローラ検査で「いまの腸の状態」を知る
便を採取するだけで腸内細菌のバランスがわかる
「自分の腸内環境がどうなっているのか知りたい」という方には、当院で受けられる腸内フローラ検査がひとつの方法です。採取した便に含まれる腸内細菌から、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の割合を調べ、現在の腸内環境を数値で確認できます。
検査結果をもとに、食事のアドバイスや生活習慣の見直しを具体的に提案できます。花粉シーズン前に受けておくと、どの方向で腸内環境を整えるべきか目安が立てやすくなります。
花粉シーズンのお腹の不調も併せて相談できる
花粉症の時期に腹痛や下痢が起こる方は、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)や過敏性腸症候群(IBS)の悪化が背景にある場合もあります。こうした消化器症状について詳しくは、別の記事「花粉症で腹痛や下痢?お腹の不調と花粉の意外な関係」でまとめていますので、あわせてご覧ください。当院では鎮静剤を使った苦痛の少ない胃カメラ・大腸カメラで、お腹の不調の原因を調べることもできます。
参考文献
※本記事テーマに関連する主な参考資料
- Luo C, Peng S, Li M, Ao X, Liu Z. The Efficacy and Safety of Probiotics for Allergic Rhinitis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Immunol. 2022;13:848279. PMC
- Xiao JZ, Kondo S, Yanagisawa N, et al. Clinical efficacy of probiotic Bifidobacterium longum BB536 for the treatment of symptoms of Japanese cedar pollinosis in subjects evaluated in an environmental exposure unit. Allergol Int. 2007;56(1):67-75. J-STAGE
- Ishida Y, Nakamura F, Kanzato H, et al. Effect of milk fermented with Lactobacillus acidophilus strain L-92 on symptoms of Japanese cedar pollen allergy. Biosci Biotechnol Biochem. 2005;69(9):1652-1660. J-STAGE
- Trompette A, Gollwitzer ES, Yadava K, et al. Gut microbiota metabolism of dietary fiber influences allergic airway disease and hematopoiesis. Nat Med. 2014;20(2):159-166. PubMed
- 松原篤ほか. 鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年, 2008年との比較): 速報. 日耳鼻. 2020;123(6):485-490. J-STAGE
よくある質問
- Q. ヨーグルトを食べるだけで花粉症は治りますか?
- A. ヨーグルトだけで花粉症が治るとは言えません。プロバイオティクスは症状やQOLの一部を改善する可能性が報告されていますが、エビデンスの確実性は低く、標準治療(抗ヒスタミン薬など)の代わりにはなりません。補助的な手段としてお考えください。
- Q. どの乳酸菌を選べばよいですか?
- A. 花粉症に関する臨床試験で検討された菌株として、BB536(ビフィズス菌)やL-92(乳酸菌)などがあります。製品を選ぶ際は、菌株名が明記されているものを目安にしてください。「乳酸菌」とだけ書かれた製品では研究結果と照合しにくいためです。
- Q. いつごろから飲み始めるとよいですか?
- A. 臨床試験では4〜12週間の投与期間で効果を評価しているものが多いため、花粉が本格的に飛び始める前——できれば数週間以上前からの開始が合理的です。ただし、最適な開始時期はまだ確立されていません。
- Q. プロバイオティクスに副作用はありますか?
- A. 臨床試験の範囲では重篤な有害事象はほとんど報告されていません。おもな副作用は腹部の張りや軟便などの消化器症状です。ただし、免疫不全がある方や重篤な基礎疾患のある方では菌血症などの報告がまれにあり、主治医への相談が必要です。
- Q. 腸内フローラ検査で花粉症の改善度はわかりますか?
- A. 腸内フローラ検査は腸内細菌の善玉菌・悪玉菌・日和見菌の割合を調べるもので、花粉症の改善度を直接測るものではありません。ただし、腸内環境の現状を把握することで、食事や生活習慣の見直しに役立てられます。
- Q. 子どもにも乳酸菌サプリを飲ませてよいですか?
- A. 小児を対象とした研究もありますが、成人とは体格や免疫の成熟度が異なります。お子さんに使用する場合は小児科やかかりつけ医にご相談のうえ、菌株と用量を確認してから始めてください。
- Q. 食物繊維を多く摂るだけでも花粉症に効果はありますか?
- A. 食物繊維→腸内細菌→短鎖脂肪酸→免疫調整という経路は動物実験で支持されていますが、「食物繊維を多く摂れば花粉症が改善する」と示したヒトの臨床試験は現時点ではほとんどありません。全身の健康に役立つ食習慣として取り入れつつ、花粉症の治療は標準的な薬物療法を基本にしてください。
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